拝啓みかこ様

毎日お酒を飲まなくても楽しいよ

2016夏

ねむい。つかれた。とてもねむい。家から出たくない。ねむい。

ひどい有様だった。立てど眠いし座ると寝てる。
はじめて飲んだ栄養ドリンクは涙の味がした。

夢と現実との区別も曖昧だった。
夢と現実の間でタイ人考古学者として存在していた私は、発掘調査に追われていた。フランス人の助手と馬が合わず、地下でよく喧嘩した。大学時代にお世話になった教授の友人の息子であるというコイツはとにかく横暴で、傲慢で、友愛のかけらもなかった。早くミイラを見つけてこいつとのコンビを解消したかった。現実世界での生活と、タイ人考古学者としての生活と、多重生活で満身創痍だった。会社のデスクに「バラエティ番組のオファー断る」とメモが残っていた。クイズ番組に出てほしいとのことだったが、発掘作業も佳境に入っていたため、出演を見送る、ということだったらしい。バラエティ番組のプロデューサーさんには懇意にしていただいた記憶があったため、苦渋の決断でもあった。しかし私はタイ人でもなければ考古学者でもない。

そうして私は現実世界で起こるあれやこれや、もうひとつの世界で巻き起こるフランス人との闘争から逃避すべく、夏季休暇を利用して山形へいってきた。

満員電車も残業もない。くそフランス人考古学者もいない。ミイラを求めて暑苦しい行軍もない、スポンサーの顔色を窺う必要のない生活のなんとすがすがしいことか!
豪快かつしなやかな善寳寺の御祈祷。自転車乗りの膝に語りかける出羽三山。熊鈴をつけないと通れない道。玉こんにゃく。ばあちゃんの残り香とオーシャンビュー。これさえあれば生きてゆけると思った。ユートピアここに極まれり。ありがとう山形。

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夏季休暇から2ヶ月が経とうとしている今、あの日々ももしかしたら夢だったのかもな、と思いつつ、手元の御朱印帳を眺めては現実であることと神仏のご加護を噛みしめ、今日もまた考古学者の夢をみる。